「下妻物語」「嫌われ松子の一生」などの映画や、ドラマ、CMなどの美術監督をされている桑島十和子さん。彼女が関わった作品はどれも個性的な演出が目を引く。美術という仕事とは何なのか、作品にどのように関わっているのかを伺いました。

— 美術という仕事をしようと思った理由はなんですか?

例えば、映画だったら台本に基づいて背景や設定を作っていくのですが、簡単にいうとそういうお仕事です。この仕事をしようと思った理由は、お話に沿って絵を描くのが好きだったからですね。

小学生くらいの頃は絵本の挿絵を描く仕事に就こうと思ったけれど、中学生の頃に映画やテレビを見ていてその画面を作っている人がいることに気が付いたんですね。それを決める人がいるはずだと思ったけど、繋がりがなかったので入り方がわからなくて。だから、とりあえず絵を描いていようと思って高校から女子美に入りました。

— 30年近くこのお仕事をされているということですが、10年後はどうなっていると思いますか?

自分自身のことはわからないかな。10年前は今と同じことをしているんだろうなと思っていたけれど、45歳になってあんまり先のことを考えなくなりましたね。仕事をしていて思ったことは、1番大切なことは長く続けることです。私はまだそこまで達していないと思うからわからないですけど「10年後はわからんぞ」と言うのは常にありますね。与えられて自然に広がった仕事だから、将来何をしていたいというような具体的なことはないですが、続けていくことを意識しています。

— では、美術という仕事そのものの未来はどう思いますか?

私がこの仕事に入った時はパソコンも携帯も普及していませんでした。それが今やパソコン作業が当たり前の時代になっているので、その部分が膨らんでいくのは当たり前だと思いますが、そっちが膨らむとそうじゃない方(アナログ)も膨らんでいく。どちらが良いとは言えないけれど、今後10年でどちらも進歩していくと思います。

— 最近、桑島さんが美術を担当された映画「TOO YOUNG TO DIE」が公開されました。その中でいつもと違ったことはありますか?

いつもと違ったのはやっぱり制作したのが「地獄」だということですね。まさか自分が地獄を作る日が来ると思ってなかったので(笑)。丁度お話を頂いたのが「和」にハマっていた時だったので、監督に「仏教っぽくしたい」というオーダーを受け、私なりの仏教世界にしてみたつもりです。

— 「和」に注目していたのですね。

日本的なものには注目してますね。「洋」ではなく「和」。最近は伊勢神宮や神道について興味があります。幼稚園がキリスト教だったので、これまで外国の方ばっかり気になっていてヨーロッパとか教会方面に行ったりしていましたね。日本の良さには最近気が付いた感じです。だから、環境って大事だなと。

アイデアは「かならず降りてくる」

— 環境といえば、桑島さんのその独特な世界観はどこから影響されているのでしょうか?

「人と同じものは作りたくない」というのは常にありつつも本人は特に独特だと思ってないというか、好きなように作っていたらそうなっていただけですね。例えば、「『下妻物語』※みたいにしたいんです」というような仕事も来るんだけれど、そうなるとつまらないですよね。「1度作ったものだし、もういいのに」と思うこともあります。私は別にアーティストじゃなくて、作品のために作っているつもりなので。基本的に自分の色は全く出してないつもりでやっているので、すごく不思議がられることもありますね。個性をもっと出したくなりませんか」と聞かれることがあったら「いいえ、ちっともなりません!」って言ってます(笑)。

桑島さん参加作品のポスター「下妻物語」(左)「TOO YOUNG TOO DIE」(右)」

— そのようなお仕事をされていると発想が大切になってくるのではと思うのですが、桑島さんのアイデアの源泉はどこからやってくるのでしょうか。

アイデアに関しては「考えていないようで考えている」というのが正しいですね。それを踏まえて上から降りてくる感覚です。お題についてはなるべく考えないようにしているけど、どこかで考えてはいて。お風呂に入ったり、料理をしたり、他の仕事をしたりして、何かと同時進行しながら考えつづけて、まとまった瞬間に頭に自然にスッと降りてくる感じです。煮詰まることもあるけれど、個人的には煮詰まっているとは感じないですね。アイデアは「かならず降りてくる」という自信があるので。

— 私達が2年制の大学に通っているのでそれにかけた質問なんですが、この2年で楽しかった仕事はなんですか?

1年がとっても早いですね。2年前が2日くらいに感じます。そして昨日のことは忘れる人だから、2年間の思い出は「こんなことやってたな」くらいしかない。変わりなくいつも通りやってました、くらいしか言えないですね。

— 最後に学生時代の思い出を聞かせてください。

学生時代は絵画をやっていたんだけど、上手な子に「桑ちゃんの手が一番上手だね」って褒められたのを覚えてますね。あと、描くのが早かったんです。だからすぐ描いてすぐどこかに行くみたいな感じだったのであんまり印象に残ってないと思うんですよ。卒業してからは油絵は一枚も描いてないです。でも便利ですよ、何か1つ強みを持っていると。

※下妻物語 ー 2004年公開の映画(監督:中島哲也、原作:嶽本野ばら)。ロリータ服の少女とヤンキー少女の風変わりな友情を描いている。