オーダーメイドの衣装・小道具制作を仕事にしている渡辺さん。自分の得意分野を武器に、様々なことを吸収しつつ進化していく。作ることの楽しさを知っているから、作業を見て覚えることが得意だという彼の進化と成長とは。

世の中の需要と自分ができること

— 造形衣装の仕事とはどういった出会いがあったのですか?

衣装を作って友人に着てもらいイベントに参加したら、初回から賞をいただき、テレビ取材も受け、その後何社からも雑誌の取材を受けたりして仕事につながっていきました。祖父の世代からアパレル製造業だったので、服作りと造形物の製作の両方ともなんとなくできそうな気がして、自分の得意な分野に近かったんだと思います。20代の頃は、大学に通いながら美術学校にかよっていました。ファインアートの展覧会に作品を出したりしていたのです。友人の紹介で番組ロゴタイプの制作もやっていのですが期間が短く忙しいので、そういうのを考えると計画的にできる今の仕事の方が自分に合っていると思います。

— 今の渡辺さんの仕事は、長い期間で計画されているものなのですね。

といいますか、仕事ひとつひとつに納期を設けて、それを同時進行させている感じですね。ですから、時間はなるべく納期をもらって、長い期間待っていただけるお客様から依頼を承っています。

— この仕事で働こうと思った理由は、それが決定打だったのでしょうか。

それも理由のひとつですが、始めた時は1点もののオーダーメイド衣装製作業と言うのはほとんどなかったので、需要があるのではないかと思ったからです。作ることが好きなので、楽しく制作しています。

— 好きなことを仕事にできるのは素敵なことだと思います。

はい。僕は特撮作品の仮面ライダーが好きなんですけど、依頼が来た時は興奮しましたね。作っていて楽しいし、とてもやりがいのある仕事でした。

— 特撮衣装制作に際してのこだわりはどのような点にあるのでしょうか?

オーダーメイドなので、より本格的になるように気をつけていますね。素材などは出来るだけ多くをお客様に送って、どのような質感がよいのかを選んでもらいます。ヘルメットやアーマーの部分は、FRPという素材を使ってカチッと作ることができます。ですが、FRPは激しいアクション(寝転がったり)には向かないので、そういう場合はウレタンゴムを固めて作ります。そうすると、柔らかくアクション向きに仕上げることができるんですよ。

資料を指差しながら丁寧に教えてくださる渡辺さん

ジャケットなどの衣装は合皮で作ったものと同じ型で、ジャージのような素材で2着作ることがあります。後者は夏用の物なのですが、着る時期によっても衣装の素材は変わってくるんですよ。

自分の知らない技術

—衣装ひとつひとつに様々な工夫がなされているのですね。

もちろん、作業する中で、機材や技術の問題で僕だけでは完成させられない部分もあります。そういった時はその部分を作っている現場まで行って交渉して作ってもらったり、作業を見せてもらい技術を教わりに行きますね。

—そういった技術はどれくらいの期間で習得されるのですか?

作業工程を注意深く観察して、自分で一度試させてもらったら自然に覚えてしまうみたいで。手先が器用な方だからなのかもしれないですが、技術を習得するのにそれほど時間はかかった記憶はないです。
以前ワッペンの制作をお願いに行ったときも、器用さを見抜かれたのか、一度型を切り抜く方法を教えてもらったら「もう自分で出来るでしょ」と任されちゃいましたね(笑)。

—お一人で作られている訳ではなく、色々な方との交流があってのことなんですね。

そうですね。例えば、小道具の逆刃刀を依頼された時は、刃の部分だけ浅草の小道具屋さんに交渉して作ってもらいました。着物だと背中にしめ縄がついている衣装があるんですけど、これは実際にしめ縄を作っている職人さんに作り方を教わりに行きました。
聞くと「ある程度形を作った上からラッカースプレーをかけて固める」らしく、 それを参考に作らせていただきました。昔の人はスプレーがある訳でも無いのに作っていたんだなと考えると、すごいですよね。

—昔の人の技術は今でも中々真似できないものがたくさんありますね。

そうですね。なので私は美術館に直に作品を観に行くようにしています。依頼には中世がモチーフになっている物も少なくないので、具体的な資料にはもってこいです。

—中世がモチーフといったら、西洋剣などですか?

そうですね。ゲームの衣装だったりすると、そういうものが多いです。構造も難しくて、作るのが大変です。

—確かに、衣装に複雑な模様が入っている物もあったりと大変そうですね。小道具もそうですが、こういった模様はラフ画を参考にするのでしょうか。

そうです。基本的にはお客様から送られてくる注文通りに作るのですが、情報が足りなかったりしたら、こちらから相談します。元からある衣装ではなく、一から作って欲しいと頼まれたものには綿密な設定画が必要になってくるので、大変ですね。でもとてもやりがいがあります。

—渡辺さんが今までに一番やりがいを感じた仕事はなんですか?

特撮映画の本家本元、東宝の「ゴジラ」から発注があった時です。前シリーズの最終2作品で何点か美術制作をしています。デザインもラフ画をもらった上で、ある程度アレンジさせてもらいました。 この仕事も期間が短くて忙しかったですね(笑)。
大塚ちひろさんと長澤まさみさんが演じる「小美人」というキャラクターのアンクレットを担当したときの話なんですけど、最初に依頼が来てラフが送られてきて役者さんのクランクインの時期からスケジュールを計算して制作を進めていたら、突然衣装合わせの連絡が来て(笑)。あれには焦りましたが、やっぱり完成したのはすごく嬉しかったですね。

—そういった実際の特撮作品からの依頼はこれからも続けていかれるのでしょうか?

こういった依頼は、普段受けているオーダーメイドの衣装製作と違って、僕だけで予定が立てられないんです。全部依頼側の進行度に合わせないといけないので、とても大変でした。このまま営業を続けていけば続いた仕事なんでしょうけど、自分のペースで製作が出来ないので難しいですね。製作の中で学ぶ事が多くあるので、これもその1つです。僕は自分のペースで出来る方が性に合っているんですよね。

—10年後、ご自分のお仕事はどうなっていると思いますか?

今制作しているのは、お客さんと著作権を折半にした共同制作物なんです。オリジナルの特撮作品のようなものなのですが、そういう小さなチャレンジにひょんなことからスポンサーがついたり、どこかで誰かの目に留まったりしていろいろな人に知れ渡っていくことがあるんです。僕はそういうのが素晴らしいと思っていて。なので今自分がやっている仕事が向こう10年経った時にそういうものになっていて欲しいなと思うんです。

自分が楽しんで1から作ったものが、たくさんの人に知ってもらえて、見てもらえたら嬉しいだろうなあと。だから僕も頑張って制作していこうと思います。楽しいことがなによりですからね。